厨房思案 第102話 「価格改定」

消費税が10パーセント増税の10月1日《令和元年》より店内のメニュー価格の改定を行いました。 どうも申し訳ないです。まあいわゆる値上げをしましてその理由は様々あるんですが、一番根本の所は良質の肉の確保と維持という事です。

お客さんにしてみれば迷惑な事で、値上げなどせずにおれば波風も立たないしご負担も掛けずにすむというもので、 そう考えるとなかなか値上げに踏み出せなかったのですが断行してしまった。 だからこれを機にお店が暇になるんじゃないかと気をもんでいます。 ですが、これも自分で蒔いた種ですから仕方ないですが。

ただ、自分の心構えとしては、値上げに関係無く、お店が開店した頃から今に至るまで変わってないです。 今も当時のままです。うまいものを食べて頂きたい、これですね。


いつだったかテレビで美味そうな天丼を売る店があって、よく覚えていませんが確か一杯千円だったかな。 天ぷらのタネがあふれるほどに丼に盛り付けてまして、どう見ても2千円か3千円と値踏みしましたが、千円だったと思います。 事情があってその店は惜しまれつつ閉店という事でしたが、あの天丼の千円はおかみさんの心意気だなと思えます。

テレビを見ながら自分にあの心意気があるかと問えば自分にはないです。今もありません。 何故ならばあれ程の盛りを(食べた事ないですが)千円で召し上がって頂いてお客さんも喜んでますし作っている我々も嬉しいですが、 我々の喜びはそれほど長続きしないもんです。 少し儲けたい。儲けて励みになれば欲も出てもっと作り続けたいと願うのは商売人の常というものです。 とはいうものの、お客さんに買って頂いて我々も活躍出来るというものですから、そこは難しい。

しかし、かえすがえすもあの天丼、自分だったらいくらにしたろうか。千円か、二千円か、いや三千円に付けただろうか。

お腹が空いて店の前を行ったり来たりして、ポケットの中を手でまさぐりながら、入るか入るまいかと思案を重ねた若い頃を思い出します。


令和元年 10月 本店厨房にて