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厨房思案 第十三話


「ヨシ、シゲ、コウジへ 贈る言葉」

2年位前に求人を募集したことがあった。

その時に応募してきてくれた人は何人かいたが、
なんとなく違うような気がして、人に困っていたけれど無理に採用しなかった。
パートの人も助けて下さったりしていたので、採用に本腰をいれなかった。

ところが、ある日、半ズボンにTシャツ、ゴムゾウリなんていういでたちで
「あのう……、ここで働きたいんですが……」
と登場した御仁がいて、少しびっくりした。
今、新館の弟が預かっている「ヨシ」その人なのである。

新潟県出身、大卒、25歳。
再面接の時はなかなかスーツが似合っていて好感が持てたので採用した。 半ズボンの時は、断ろう、などと思っていたから彼が出直して来てくれた時はとてもうれしかった。


それからしばらくして、そう、1年位たった時かな。
またポツリと1人の若い人がやってきた。
やはり、「ここで働きたい」というから事情を聞くと、実家は肉屋さんをやっていて、
彼の父親がずいぶん心配していると云っていた。
大学を出て、渋谷でバーテンさんをやっていたらしい。
(バーテンさん、いいじゃないの)

長崎県出身、25歳。
どうしようかな、と思案していたら、
新館の弟が「あ、コイツ大丈夫!」(インスピレーション?)
「オレの預けてくれないか兄貴。もしもヘコたれないで続けたら、一人前にして国に帰してやるから」 と云って、またまた預かってもらった。
彼もまた新館で頑張っている「シゲ」、その人なのである。
こういう所は弟の才能なんだなぁー。 (悔しいけど、僕にはそういう度量がまずない。)

フレンチでもなく、イタリアンでもなく、高名な和食でもなく、
だいたい「焼肉屋」なんて所にそんな若い人が応募に来る訳ないだろう、
と決めつけていたからうれしかった。

そしたら、またまた少しして若い人がやってきたのです。
長身で山口県出身。
高専を出て「電飾」という光のイルミネーションのデザインと設営という仕事を長くやっていた、28歳。
彼もなかなかイキイキとしていたから思い切って採用した。
本店で働く「コウジ」その人なのである。

このように、ポツリ、ポツリと集まった彼等は実に熱心でひたむきであります。
が、しかし、時に気が弱く、頼りなく、でも真面目でよく働き、
かといって気が利くわけでもない。
というように一長一短どころか、
豆腐の角に頭をぶつけながら、鼻の頭とおでこに汗をためながら、頑張っている様子を見ますと、 今時の若い人はたいしたもんだと感心をしたりしているわけです。
僕なんかもそうだったけど、新館の弟も(大変だった、この人は……)
そんなに働き者だった「若い人」ではなかったので、よけいにそう思うのですよ。

ところが、この彼等と出会って、普通の何気ない仕事の流れに変化が起きたことに、最近になって気づいたのです。 一挙手一投足に、常に、彼らの熱いまなざしがある。
そうすると、僕なんぞは逆に体がこわばって、最初の頃は流れがうまくいかなかったのですよ。
仕事の流れが……。
ようやく最近になって、所々でポイントよく彼等と仕事ができるようになってきた訳です。
それとね、逆に教わるんですよ。彼等にね。
一緒に仕事すると、自分も普段の仕事の再確認になるんだなぁーって。
不思議ですね。

しかしまぁ、こんなウチの店で働いて将来は自分でやるんだという目的があるということですから、ここはひとつ、なんとか一人前になってもらいたいが、いかんせん世の中には飲食店は星の数ほどある。 その中から彼等が抜きん出てお客さんにご来店いただいて、かつ、生活をしていく。 女房や子供がいたら、いや、ひょっとしたら年老いた親も面倒見ないといけない。
そういう中で君達は生き残っていけるのだろうか、なんて心配もするわけです。

そこで彼等にはあえて口をすっぱくして云っているのは、
焼肉のノウハウ、タレ、肉、お金、あるいは「運」とか、
どれもこれもみんな大切なことだけれど、(もっと踏み込んで云うなら)
わざわざおいでくださるお客さんが
「おまいさんのつくる焼肉が食べたい」と云っていただけるような「店」でないと、
君達、到底自立なんぞ夢のまた夢だよって、云っているわけです。

僕なんぞは(弟もそうだけど)それを「目的」としてやってるわけなんです。
いや、むしろ「そう成りたい」んです。

ご来店の動機は沢山あって、
駅前のデザインビルだとか、夜遅くまでやっているからとか、
安いからとか、うまいからとかいろいろありますが、
どんな形にせよ、君達にしか持っていない個性というか、
”君達の手で造る焼肉がどうしても食べたいんだ”という「店」に育むことが
最も大切な条件であると、僕なんぞは思う訳です。

いづれこの若い人達が念願の夢を叶えたらそれはとてもうれしいが、
そこから先はひたむきに、一体どうしたらこれを乗り越えられるんだと
時には必死になって、時には楽しく感動し、
自分の手、足、体と、親が丈夫に生んでくれたことに感謝しながら、
乗り越えてほしいと思います。

よしんば途中で気が変わって、全部ほうり投げて出て行っても仕方ないが、どうせやるのなら
石にかじりついてでも当初の目的を達成してもらいたいのは云うまでもありません。
於、本店厨房にて。

コウジ ・ ヨシ ・ 新館マスター ・ シゲ

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