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厨房思案 第十九話


「僕のいる場所」

昨年の暮れに知人のお祝い事があって、そのパーティに呼ばれた。
懐かしい顔ぶれを思い出し、ずいぶん前からカレンダーに印をつけておいた。

一年中仕事一辺倒の生活を送る僕にとって、こういう席もたまにはいいじゃないかと思いながら、 普段着ることのないスーツをだしてもらい出掛けていったのだが、
なにせ僕は若い頃からあまり社交性があるほうではないのである。
が、皮肉にも自分の店では沢山の人々と毎日会い、ご挨拶をして、などという社会性のある現場にいるのだから、 人生というのは分からないものでありますね。

さて、そのパーティの会場に着くと、もう300人を超す人でごった返しており、
その中で何人か知った顔をみつけて久し振りにご挨拶をし、懐かしい昔話をしたが、
もう10年近くもごぶさたの方もいて、その内になんとなく話も途切れて、
気が付いたらいつの間にか僕ひとり宙に浮いたように、海老チリなんかを食べていた。
見回すと向こうの方で楽しそうにかたまっている人達がおり、行ってみようと思ったのだが
来賓の方のスピーチが始まり、ウロウロするのもみっともないし、じっとしていたが、
疲れが出たのか目まいがひどくなり、立っていられなくなってしまった。
パーティもお開きに近づいたので、主催の方に祝辞を言いお先に失礼させて頂いた。

トイレに入り冷たい水で顔をぬらし、ふと鏡で自分の顔を見ると
オイオイ、おまえの髪、白くなったなぁ。大丈夫か?
などと自分に云いたくなる程、その日は疲れた自分を発見してしまった。

考えてみれば、友人と呼べるような人達と過ごしたのはずいぶん前だし、
ほとんど厨房にいるか、寝床で泥のように眠る自分自分の日常を考えれば無理もないなと思うが、 パーティにいた彼等には、きっと僕は浦島太郎のように映ったかもしれないな。

もう少しバランス良く、仕事とプライベートに区切りをつけて人生を楽しんだらどうなんだ?
なんて自分に言い聞かせるが、それがなかなかできない。
「ココカラ、ココマデ」ということができない。
夢中になれば夢中を追い、仕事ならずっと仕事を考える。
が、そうはいっても目を皿のようにして、ギスギスと四角四面に生きている訳でもない。
ただ、毎日普通に働いているがキリがないのだ、僕という人間は。
しかし、これはどうもお手本となるべき人生ではないし、息切れもするだろうから
ヒマを見つけてどこかへ出掛けて心を空っぽにしようと試みるが
厨房に入りいつものように白衣を着て、冷蔵庫や肉をさわると、心がいくぶんなごむのは
もはやおまえにつける薬はないな、と苦笑いをしているのである。
於、本店厨房
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