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厨房思案 第二十話


「我が家の文化遺産」

僕の家では昔から食べることに熱心で、父などは食事の作法から夕飯の献立までいちいち口をはさみ注文をつけていた。盛り付けなどにも、「こうしなさい」とか「アレは良くない」などと云うし、 かと思えば何も云わずに手を付けないこともしばしばであった。

父は昭和元年(大正15年)生まれであったが、時代のなごりで、夕飯の献立は父用と我々子供ふぜいとに分かれていて、野菜の煮物と大根の葉入りの汁という下級武士並みのおかずに比べて、父のおかずは牛肉などという別格の献立であり、その献立に母に文句を云い、
母は、父の残したはしくれを長男の僕にだけ分けてくれたのを覚えている。

しかし、そういう父に対して母は実にあっけらかんとした感じで、父の、アアでもない、コウでもないという注文に、時には鼻歌まじりで台所で何かを造ったりしていたのだが、
あれは、確か、
遠足のお弁当に特大の稲荷寿司があった時は、
(油揚げの中にごはんがギッシリと詰めてあり、しかも二個なのだ)
女友達に「それは何なの?」と聞かれ、 彼女の弁当の中をチラリと見れば、
サンプル品のように美しく並んだ見事な稲荷寿司がかんぴょう巻きと上手に配置されていて、僕は言葉を失ってしまった。 この普通の2倍程はある稲荷寿司に、家に帰ったとき、母に、恥ずかしくて食べなかったと八つ当たりしたら、 さすがの母も相当キレて、父からも相当しぼられ、母はしばらく口を利いてくれなかった。
それからしばらくして、運動会だったと思うが、
昼食に父や母と広げたお弁当の中に、前回よりいくぶん小ぶりのきちんと並んだ稲荷寿司を見た時は、子供ながらいたく感動し、母のチャレンジと改良のスピリットにとても感心をしたのであります。

その母は、八十歳に手が届く歳になっても、今も現役でキムチ造りに励んでいるが、最近は体の調子をみながら、疲れては休み、いくぶん元気のあるときは朝5時から起きて昼時まで台所にいるか、買い物に出掛けている。 そのパワーには圧倒されます。

この間もするめイカとネギにコチジャン、ニンニクを少し入れた煮付けのにおいで目が覚めた。

ツマミ喰いすると、島根県産の良質のイカ、
群馬の下仁田ねぎの甘い風味が口の中に広がる。
そもそもこの献立は、生前、父の好物であったし、我が家の定番メニューであった。
例によって、いく度となく父から注文のついた品であったが、数えてみると40年以上の年月を経て改良を繰り返し今に至った、懐かしい我が家のおかずなのである。

しかしまぁ、考えてみれば僕も弟もまた嫁に行った妹なども、人様からお金を頂いて食べ物を造っている商売をしている訳だから、そういう父や母のチャレンジと改良という(少しオーバーです)我が家の文化遺産みたいなものは我々子供達に脈々と受け継がれているので、まぁ、父と母には改めて感謝をしている訳であります。
於、自宅

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