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厨房思案 第六話

「長く曲がりくねった道」

先日、写真の整理をしていたらお店を開店した頃のスナップ写真をみつけた。

玄関もテーブルも厨房の冷蔵庫もピカピカで、全てが新品で写っていた。
自分でも少し表情は固いが、何とものんきな顔でおさまっている。
この写真を撮った後、店で起きる山あり谷ありの人生なども知らずに、いい気なもんだと云いたい位、いろいろなことがあったのであります。

当時、開店しても全くヒマで、お客さんが来なかったり、狂牛病(BSE)騒ぎがあったり、身分不相応にも牛を牧場から直接買うと頑張って、とてもさばききれずに牛肉がずいぶんと残り、見通しの甘さとバカな自分をのろいたくなった頃もあった。 お店の家賃と肉の支払いが滞り、もう1歩も先へ進めない所まで追い込まれた頃もついでに思い出した。

夜中、店を閉めた後に、厨房で何度も「ここの肉はこうやって」とか、「そこの部位はこうしてカットする」などと牛肉と格闘していた。

それでも牛肉が残り、厨房のタイルの上にヘタヘタと座り何度も何度も牛肉にあやまった。
このバカなオレを許せ、必ず売るから許せ、とつぶやいた……。

デパートの食品売り場に行き、肉屋さんの陳列ケースをのぞいて肉に色をさぐったり、値踏みしたし、よく見て歩いた。 何かをしていれば気がまぎれて、店の家賃とか支払いのこととか、皆に払う給料とかの心配も少しは忘れてとか、とにかくじっとしていられなかった。 あの頃は目を覚ましてから夜中ふとんにもぐりこむまで、寝ても覚めても肉にことばかり考えていたのである。

家内が、その頃の僕はよく寝言を言っていたと教えてくれた。
「ロースの〇※#★煤「$」とか、「骨抜きのバラがギィーッ」とか訳のわからないことを大声で明け方によく通る声で、寝言というか、叫んでいたそうだ。
ある時などは、朝の5時キッカリに(そうらしい)寝言で「アリガトーゴザイマシター!!」とやったものだから、長屋住まいの我が家、向う3軒両隣にハッキリ聞こえたらしく、朝5時からのアリガトウは、後で母と家内がご近所に言い訳をするのに困ったと笑っていたそうだ。

数え上げればキリのない山あり谷ありの思い出を、しばらくぶりにこの開店当時の写真がよみがえらせてくれたのである。

そういえば、開店してまもなく、芝大明神(第1京浜の大門交差点の近く)へ参拝し、”この焼肉の家業でご飯が食べていけますように”と願掛けしたを思い出した。

この、何とものんきに写っている自分の顔を見て、初心を思い出したのでありました。

                                      …… つづく ……
(アー……、終わった。ねむ…い。5:45AM)
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