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厨房思案 第九話

「五感と感動」

若い頃、大阪の焼肉レストランで見習いのような仕事をしていた。

焼肉のにおいとお客さんが焼肉を食べてる雰囲気がなんとなく気にいって、この仕事を選んでしまった。 調理長の方は仕事もよくやり、非常にタフな働きぶりに圧倒されたのを思い出す。
時々、店のまかないで焼肉を食べると、なんとも幸せな気分になる事ができた。
調理長に、当時、大阪近辺で数少ない焼肉の名店を教えてもらい、給料が入ると弟をさそい食べに行ったことがある。 お値段もよく、料理や肉、たれの仕事なども丁寧かつおいしく、さらに品格もあった。 そう何度も通える程高給取りでもなかったのであるが、それでもよく行ったものであります。

ある時などは一晩に2件ほどハシゴをし、帰りの電車賃だけ残し全部使ってヒョータンのような腹で家に帰ったこともある。 次の給料日まで相当あって、何をどうやって生活したのか思い出せないが、水道の水はよく飲んだ。 金がないのでよくパン屋に行って「ミミ」をもらい、2〜3日空腹をしのいだので、あまり思い出したくない若い頃であった。
今度こそ、”給料をもらったらストーブとよそいきの服を買う”などと算段したが、なぁに、給料日の10日前に前借りして焼肉を食べに行ってしまった。 なんとも食い意地の優先する男だったが、あの味わった感覚が体の「五感」に反応したというか、刺激してしまったのかも知れない。

人間は「五感の動物」である、と誰かが云った云わなかったか。(思い出せないが……)
見て楽しみ、聞いては感動する。 香りで五感を呼び起こし、食してその素晴らしさを実感するといった具合に、全く以って、その通りだなと思うことがある。

見聞や体験は「五感」を刺激し、その「何か」が、ひいては心に深く残る「感動」を生むのだな、と言ってもいいだろう。 楽しいことや素晴らしいこともそうだけれど、悲しいことや嫌なことも、この感動というか「五感」に反応すると、テレビで(誰だったか思い出せないが)云っていた。
僕なんぞは、その感動を無意識に求めて、いや僕だけではなく、人はそれぞれの分に合った価値あるものに自分の稼いだお金を使うのではないかと思えてくる。

そう考えると、感動するということは人によっても違うが、お金のかかるものである。
しっかり働いて目標を定めて、お小遣いが貯まったらどこかに出かけて、今日は何を食べようか、などと考えている僕は、全く金のかかる野郎だなぁとつくづく思っているのである。
しかし、着る物も着ず、食べる物も食べず、どこにも行かず、遊びにも行かない、焼肉なんてとんでもない。 もしもそんなことをしたら、多分、僕なんぞは頭もボケて何の感動もない、無機質な人間になってしまうだろう。

そんな男が作る焼肉なんて、うまい訳がないのである。

人によっては、車を買ったり家を建てたり、あるいは旅行にでも行って五感を刺激するのもあるだろう。 いや、お金なんかなくても、自分にできないことが、練習して努力してできるようになった感動もおおいにあるだろう。
人間は相応に五感を刺激し感動する動物なのであるから、 僕の場合は水道の水を飲んでもパンのミミをかじっても、 自分の心が豊かになることには相応にお金を惜しんではいけないと、常々思っている。

                                      …… つづく ……

於、建築中の日比谷ペニンシュラホテルを見上げながら……。
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