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厨房思案 第二十五話


「想像と分身」

僕は甘いものと牛肉が好きなもんですから、いまだに体重が減らず(95Kgです)家内もほとんであきらめた様子で、今はもう何も云わなくなりました。 給料が入ると大抵どこかに行って(まぁほとんどデパートへ行きますが)菓子やら牛肉やらを買い込んでは家に帰って食べています。

ですから、従業員などからも里帰りのおみやげにいろいろとおすそ分けを頂きます。
このあいだ新館のシゲ君からおみやげに頂いた長崎のカステーラなどは、なかなか上等な菓子でした。 どっしりと重く、そのまま食べてもおいしく、少し工夫をしてホイップクリームなどをのせて頂くと至福の味わいでありました。 聞けば、ずいぶん昔からあるそうで、こういう菓子ひとつでも伝統を生かして真っ当なものを造り続けるということは、そうできるものではありません。

先日取引先の社長さんから頂いた羊羹(ようかん)なども立派なものでした。
羊羹は重いんです、実は。
これが実に優雅な味?というか、分かりにくいと思いますが、上品な甘さといい文句がつけようがありませんでした。 菓子一筋という気が致します。

しかし、およそひとつのことを極めていくってことは並大抵のことじゃありませんね。
あれもしたいこれもしたいと、欲が出るのも人間ですから無理もないですが、
同時に沢山のことをやるとなかなかこれが上達しないし、ひとつに的を絞って、さてこいつを一体全体どうやってあれしようかなんてことを、もともと無い知恵を絞って、あるいはひねり出して、寝ても覚めても、ああでもないこうでもないをくり返す内になんとか形のようなものが浮かびあがってくる。 しかし、それはまだハッキリとクリアーでなく、もやもやとした形のようなものに、今度はこうしてああしてなんて、またまた終わりのない思案をくり返し、やっとのことでもやもやの形のようなものが段々と型どられて、そして、自分の分身のようなものが移って、あのカステーラや羊羹が生まれたんじゃないかって思います。

たまに散歩に行く芝増上寺にある仁王像は江戸時代のさぞかし名のある方が造られたと思いますが、当時、何を想像してあれを造ったかと考えると面白いです。
仁王様とご対面した訳でもなく、自分の持つイメージと当時の資料からいく度となくくり返しくり返し思案をめぐらせてお造りになった、いわば作者は不明ですがその方の分身かも知れません。

仁王像に限らず、今ある物や目に見えるもの、空間、ビルディング、自動車に至るまでの全てのモノとか、それらを想像した人達のイメージの分身なのかと、つい大げさに考えていますが、
今もこうしてこの暑苦しい厨房の中で肉を切り、仕込みをし、タレをこしらえて、
アレはこうしようコレはああしようと思案をめぐらせて食べて頂く牛肉は、
ひょっとしたら、僕達の「分身」かもしれません。

於、本店 厨房
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