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厨房思案 第四十八話
「商売見習い」

僕はもともと商売経験ということがなかったので、自分の店を開業するにあたっては、もういい歳だったし、 これを出発点にしてうんと金をもうけて事業を拡大して社長になろうという動機よりも、 ただ漠然とこの仕事が面白そうだと思って始めたので、経験不足を補うつもりで人様の商売の有様を自然に見るように心掛けた。

普段の買い物から仕入れに至る迄、行く先々で見て勉強し、良い所はこれを手本とし、そうでない時は反面にしようと思って 必ず自分が行って現場の有様を吸収した。
折角いい仕事をしながら途中で嫌になって道をそれて、その内お金が入ってこなくなりやめてしまうこともあるし、 あるいはその人の心が品物に形となって表れて、人が価値を認めて、お金を出してもそれが欲しい、ということもある。
人様の仕事や商売というものに先々の未来などと云うものは分からないけれども、今まで積み上げてきた実績ということは見てとれるから、 良いこともそうでないこともこの目にしっかり焼き付けておこうと思った。
自分の商売を続けてゆくのにこれはとても役立って、経済の本よりも即効性がある。

その内に自分の求めているスタイルが少しずつ分かってきて、ひとつのことを専門にしようと考えるようになった。

買い物に行って靴を買ったとしたら、ついでに店員さんがベルトもバックも時計もいかがですか?という商売もいいが、 それよりも、靴のことは私に任せてもらいたい、と云う位靴しか置いていない、 どこを見廻しても靴だけであるが、ただし、気に入ればその手入れ方法からメンテナンス、コーディネイトまでしっかりアドヴァイスもしたい。
できればこの世に一足しかない自分に合う靴を造ってもいい。
お客が気に入れば靴は一足くらいは売れて、ベルトも時計もバッグもないから売り上げは靴一足分しかないが、 買ったお客は”なる程、云われた通りに良い履き心地だからうれしくて、誰かに伝えたい。次に買うことがあればまた行って注文したい。”
そんな感じが気に入って、それに、これはむしろ僕の性分に合っている。
しかしこの靴は死ぬ程良い靴であるべきだ。

今、この時代、結果オンリーのスピード感に比べればスローな商売であるが、 家族規模の店であるから、時間が掛かってもそれ程失うものはない。
商売を通して人と人の付き合いがあるように、信頼もひょっとしたら生まれるかもしれないし、このやり方のほうが気が楽である。
だけど、この商売でなんとか一本立ちできるまではずいぶん廻り道もしたし、お金にも苦労をしたが、 それでもこの亀のようなノロノロした歩みは、時間をかけた分、むしろ人様から信用されるようになったことがうれしい。 これは僕の財産と思っている。

僕は今だ商売見習いの途中であるが、仕事が嫌にならないようにゴールを目指さない方がいいだろう。 今は明日のこともあさってのことも考えず只、今目の前にあることに集中しているが、時のたつのが最近早いなぁ……。
僕の髪は浦島太郎のように白くなってしまったが、商売見習いはこの先も続く。
亀のようにノロノロと歩み、時に険しくもあり、だけどそれなりに、楽しい。
2011年2月14日    於、本店厨房
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