「壁の絵」
通勤途中だったと思うが、ビルの建築現場の壁一面にどこかの小学生達が描いた美しい絵が並べてあるのを見たことがある。
色とりどりの、斬新で、活発で、面白く、実に楽しいく描いている。
僕は絵が全くダメで、何も分からないクセに美術館にはよく行くが、あの壁にあった子供達の絵はなかなかいい。
世の中がひっくり返る程の不景気騒ぎの中で、こんなに美しい絵を子供達は描いていたのだ。
いつか観た映画「アンタッチャブル」のシーンで、ギャングのボス、アル・カポネを追いつめようとするエリオット・ネス。
必死に喰らいついてなんとかその尻尾をつかもうとするが、逆に四面楚歌の窮地に立つ。
手も足もでなくなったその時、妻からの電話が鳴る。
部屋の壁紙を何色にしようか迷っている、という。
エリオット・ネスはマーロンにこうつぶやく。
「こんな時に壁紙の色を考えている人がいる……」
あの建築現場の壁の絵を見ている内に、エリオットのつぶやきが聞こえてきた。
サイコロの目のように、世の中に生きる人々の面は一様ではない。
逆境もあれば順境もあるだろうし、それぞれに歩む道というものがあるものだと……。
あの美しく素直な壁の絵を見ながら思うのであります。
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