「焼肉くにもと・本店」全国優良銘柄牛生専門点

「力の源」
もうずっと人様の召し上がるものを造っている仕事であるから、こう、いざ自分のメシを作る時はこれがとても面倒臭い。 仮に作ったとしても気が乗らないからなんかうまくない。だから、自宅ではあまり作らない。 ところが、家内や母が、これが例えば食パンイチマイをトースターで焼いてくれて、マーガリンなどもぬってくれたりすると、たったそれだけなのにやけにうまい。 ついでに、紅茶も淹れてくれる。 イングリッシュ風にミルクなども用意してある。 絵にするとパンイチマイ、紅茶一杯しかないが、自分のために誰かがこうして作ってくれるとおいしいものだ。
嬉しくて金を払いたくなるが、家族であるから無料である。 だが、当たり前とは思わない。
最近、そう思う。

そこへ、今度は職場ヘ行き、厨房ヘ入り、白衣に着替えて仕込みをする。 忙しい時は予約のリストをにらみながら本戦ヘ突入するや、もうその時分にはつい先ほどまで自宅でパンをかじっていたふぬけの自分ではなく、 何か別の魂が体に入ってきたような心持ちになってシャッシャと体が動いて、人様の召し上がるものを造っている。

ああ、きょうも無事出来た。
うちに帰ってホッとすると、もう気力も失せて、部屋をヨロヨロと歩き、冷蔵庫の隅にあったチーズのかけらを口に入れてボーっとする。 自分のメシは作りたくないが誰かさんのご飯を作るというのは不思議に何か力のようなものが湧いてくるものだ。
もしもこれがなかったら、多分、僕は朽ち果ててしまうだろう。

於、本店厨房