そこへ、今度は職場ヘ行き、厨房ヘ入り、白衣に着替えて仕込みをする。 忙しい時は予約のリストをにらみながら本戦ヘ突入するや、もうその時分にはつい先ほどまで自宅でパンをかじっていたふぬけの自分ではなく、 何か別の魂が体に入ってきたような心持ちになってシャッシャと体が動いて、人様の召し上がるものを造っている。
ああ、きょうも無事出来た。
うちに帰ってホッとすると、もう気力も失せて、部屋をヨロヨロと歩き、冷蔵庫の隅にあったチーズのかけらを口に入れてボーっとする。
自分のメシは作りたくないが誰かさんのご飯を作るというのは不思議に何か力のようなものが湧いてくるものだ。
もしもこれがなかったら、多分、僕は朽ち果ててしまうだろう。
於、本店厨房