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「つかの間の夢」
毎年年の瀬になるといろいろ忙しく、早くお正月が来れば、などと思うが、
正月は正月で年始めや来客もあって、これまた忙しい。
お墓参りもするし、とにかくじっとしているヒマなどない訳で、
仕事始めの5日の日には相当に疲労してしまってとうとう風邪などをひいて寝込んでしまうこともある。
いっぺんでいいから正月は何もせずにシーンとした所でボーッとしてみたいと思う。
腹が減れば何か適当に造って食べ、眠りたいだけ眠ってみたい。
BGMは特になくても良いが、タンゴなど音量を絞って絶え間なく部屋中に流し、
預かっている犬の散歩をし、朝から風呂に入り、読んでいない本を読み、
とっておきのきんつばや、いちごショートのケーキなどをほおばり、
うだうだとするのもいいだろう。
家内に頼んで足の裏をふんでもらい、疲れをとるのもいい。
きっと、もしかしたら、
庭にさく花々の香りや、冬の冷たい風が敏感に感じられるかも知れない。
人は何十年生きられるか、これは神様のみ知ることだし、 人間の寿命程いい加減なものはないから、
どうせなら、せめて、わくわくとそして静かに、
時には子供の頃にように日向(ひなた)のにおいがするような時を過ごしたい。
しかしそんな事を云ってみたものの、なかなかそうはゆかない。
あれもこれも宙ぶらりんが一杯あって、ひとつづつ、またなんとかしなくちゃいけない。
今年もあいかわらず働いて、 庭に咲く花の香りも日向のにおいものんびり楽しむことなく過ぎるかも知れない。
しかし、これ位が丁度良い。
全部叶うと良くない。
それのほうが何となく面白い。
よしんばそういう望みが全部叶ったら、気がゆるみ、腹に力が入らなくなるような気もする。
あともう少しで手が届く、いやこれなどはまだまだ、それは遠い先の話、などと
片の付かない事柄を頭に浮かべている位が気も張るし、何となく力も出てくるようだ。
今年は年明けに不覚にも風邪をひき、うんうんとうなって寝ていたが、布団の中で、
”元気になったらきんつばもショートケーキもタンゴもいらない、また白衣を着て店に出て働きたい”
と心からそう願ったら、成人式の翌日にはすっかり良くなって働いている。
あれもしたい、これもしたいとニヤニヤしていたら、神様にポカッと頭を殴られたような気がした。
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