牛肉を仕入れるにあたっては、昔は一頭(枝肉)ごとに牧場から直接買っていたこともあるが、
実際にはなかなか全部使い切れるものでなく、お客様に買って頂く製品、いわゆる売り物になるのは相当に絞りこんで、
余った牛肉の部位はその処分に随分頭を痛めたものだ。
もちろん、捨ててしまうことはないが、時間や手間をかけて加工したり、フォンドボーやカレー、ハンバーグなどに応用したものの、製品にするには労力とお金がかかってしまう。
それに意地もあった。
焼肉という看板を掲げておきながら、カレーやハンバーグを売る、ということができなかった。
金になるならなんでも売る、という意地も無かったかもな。
ただ、余った牛肉に思案をめぐらせつつも、この一頭買いに惚れ込んでいたから、多少のロスが出ていようが仕入れを休まなかった。
何故か?美味しいからだ。わかりやすい。
ここが良くて、でも、この部位はまずい、なんてことがあっては困る。
お金を出してハズレがあっては悔しいものです。
今は、肉問屋の加工技術や、各部位ごとのパッキング(空気が入らないようにパックしてある)包装も格段に良くなって、昔に比べたら相当楽になったものである。
産地も選べるし、必要の無い部位は買わなくてもいい。
しかし、それでもまだ納得がいかないから、昔程ではないが、やはり一頭買う。指定した銘柄をセリで落としてもらう。
いい牛はハズレの確率が低いと自分で信じている。
でも、生き物の肉って難しい。
いっそのこと、“ロールカステラのようにどこを切っても美味しい”、なんてことを考えなくもないが、思案というものは尽きないもの。
これもまた、僕の仕事なのです。
於 焼肉くにもと本店厨房